CHASE YOUR DREAM INTERVIEW #01 トライアスリート AI UEDA / 上田藍

すべての日々は「勝つ」ために

スイム・バイク・ランの3種で体力の限界に挑むトライアスロン。 リオデジャネイロオリンピック日本代表の上田藍選手は155cmと小柄ながら しなやかなパワーとスピードで自分より体格の勝る選手を圧倒する。 一方で、人を魅了するはじけるような笑顔もチャームポイント。 3度目のオリンピックで金メダルを目指す上田選手の挑戦の旅とは————

上田藍プロフィール

1983年京都府出身。155cm、44kg。4歳から水泳を習い始め、中学時代は水泳部に所属し、冬は陸上部の駅伝メンバーとして活動。高校時代は陸上部に所属。高校3年の夏、それまでの競泳と陸上の経験を活かしトライアスロンの道へ進むことを決心。そして2016年。リオデジャネイロにて3度目の出場となるオリンピックでの金メダル獲得を目指す。

ただ純粋にスポーツが好きで

てっぺんに立って初めて見える景色があるという。上田選手がその景色を見たのは高校3年の夏だった。トライアスロン大会初出場で、いきなり優勝。素質が違うのだと思うかもしれないが、そこに至るまでの過程あっての開花だ。それまでの上田選手は中学で水泳、高校で陸上に打ち込んではいたが、なかなか勝てなかった。勝てないながらも練習だけは人一倍熱心な、ただ純粋にスポーツ好きの少女だったのだ。
「強い人と比べるとやる気がなくなってしまうので、中学までは自己ベストの更新を目標に頑張っていましたね」
小さいころから負けず嫌い。2歳年上の兄と競うようにして3歳から水泳を始め、中学も兄を追って水泳の盛んな学校に入ったが、スクールでも、水泳部でも、目立った成績は残せなかった。
「記録が出ないのは私の練習が足りないから」
いつか勝てると信じてなおいっそうの努力を積む。客観的に見れば十分すぎるほどの練習量であったが、悲壮感はなく、その姿勢はむしろあっけらかんとしたものだった。

3種目そろえば 勝てる

子どもの頃からちびっ子マラソン大会などで活躍して持久力のあった上田選手は、中学時代も水泳の練習がない冬の間だけ駅伝メンバーとして陸上部で走っていた。中学3年では全国大会に勝ち進んで見事に区間賞を受賞。勝ちに飢えていた時期だけにこの経験は大きく、進学した高校の体育科では陸上に転向。陸上なら、全国区で闘えるかもしれないと思ったからだ。しかし、3000メートルの選手として目指したインターハイへの出場はあと一歩のところで叶わなかった。進路を決める高校2年の秋、初めて不安がよぎったという。
「スポーツでやっていきたい。でも大学の陸上部についていく自信はないし、実業団も声がかかるタイムでは走っていない。そんな中で思いついたのがトライアスロンでした」
1種目では勝てなくても、3種目そろえば勝てる。それに気づいた上田選手は高校を卒業後、稲毛インターに所属して山根英紀コーチに師事する。それからの快進撃は、記録が示すとおりだ。
「それこそスポンジが水を吸うような具合で、やれば必ず結果が出ました。楽しくて、自信もつき、最高の循環の中で競技にのめり込んでいけたと思います」

経験の引き出しを増やすのが練習

今も上田選手は自他ともに認める練習の虫だ。1日にスイム6000〜8000m、バイクは男子選手をパートナーに、ランは敢えて起伏の激しい山中で行う。これがきつくないはずはない。しかし、上田選手はきつければきついほど、モチベーションが上がるのだという。そこにあるのはいわゆる根性論ではなく、まっすぐで確かな視点だ。
「練習中は常にレースをイメージしているんです。辛いときも、トレーニングパートナーがあの選手でこういう状況にあるときだからと仮定して、どう攻略するかに集中します」
スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmの順番で合計51.5kmの距離を競うオリンピックのトライアスロン。自分との闘いという面もあるが、最終的には選手同士の競り合いや駆け引きが勝敗のカギになる。それぞれの選手に得意・不得意があり、自分の持ち味を活かした勝ちパターンに、いかにしてレース中に持ち込むか。己も敵も知ったうえでの戦略に醍醐味があるのだ。
バイクだけでも、走行技術が高いベテラン、ブレーキのタイミングが計れない新人、さまざまな選手との距離を詰めたり、離れたり。仕掛けられたら勝負に出るのか、我慢するのか。もちろん風があったり、雨で道がぬかるんだり、自然の条件でもがらりと変わる。それをスイムとランと、3種目の流れの中で展開させていかねばならない。
「いろいろな状況でどう動くかをレース中に見極め、実際にその通り動けるのは、練習であらゆる状況を経験してきて引き出しがあるから。引き出しを増やすのが練習なんです」

もっともメダルに近い3度目

それを痛感させられたのが8年前、2008年の北京オリンピックだ。上田選手の必勝パターンはスイムで遅れず、バイクでしっかり追いついて、得意のランで勝負するというもの。しかし、初めてのオリンピックで冷静さを欠く。スイムの遅れを取り戻そうとバイクで頑張りすぎてしまい、肝心のランで思うように足が動かなかった。
「走りたい気持ちは一杯なのに、悔しくて悔しくて————。トップ集団の選手の背中を見ていてわかったんです。この人たちは毎日の練習でずっと、この日のこのレースのことを考えていたんだ、と」
次は負けない。フィニッシュしながら上田選手の気持ちは既に、4年後のロンドンオリンピックにあった。
しかし、練習を尽くしたつもりのロンドンオリンピックでも誤算はあった。ランという自分の武器を伸ばすのには成功したが、スイムの世界水準レベルがさらにアップし、バイクで追いつき切れなかったのだ。
「メダルを取るには私は4年じゃ足りなかった。8年計画なんだと思い直して、リオへの練習を続けてきました」
そうした中、2016年5月のITU (世界トライアスロンシリーズ)横浜大会では堂々3位に入賞。
「オリンピックイヤーになってどの選手も仕上げてきている中、表彰台に上れたことは大きいです。有力選手にマークしてもらえれば、一緒にレース展開をつくっていけます」
メダルに向けて、大きな手応えを感じていると話す上田選手。その視線の先にあるのは、オリンピックのてっぺんだ。

上田 藍 / Ai Ueda トライアスリート上田 藍 / Ai Ueda トライアスリート

主な戦歴

2006年 ITUローザンヌ大会 12位
2006年 ASTC(アジアトライアスロン選手権)優勝
2006年 第15回アジア競技大会(ドーハ)銀メダル
2007年 第13回日本トライアスロン選手権優勝
2008年 ASTC優勝
2008年 北京オリンピック 17位
2009年 ワールドカップ最終戦(メキシコ・ウアツルコ)優勝
2012年 ロンドンオリンピック 39位
2013年 ITU世界デュアスロン選手権
(ワールドゲームズ)(コロンビア・カリ)優勝
2014年 第17回アジア競技大会(仁川)金メダル