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パラリンピックから始まったブリヂストンのDE&I。パラスポーツ支援は「企業として社会への価値を創出していく」

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2014年からオリンピック、2018年からはパラリンピックの最高位パートナーを務め、昨年の東京大会も支えたブリヂストン。タイヤ・ゴムを中心としたソリューションビジネスを展開し、義足ソールや車いすテニス用タイヤ開発などを通じてトライアスロンや車いすテニスなども積極的に支援する同社は、パラスポーツを単なるサポートだけでなく、近年企業の重要課題になりつつあるDE&Iそのものと捉えて取り組みを進めている。オリパラのレガシーにも注目が集まる昨今、パラスポーツ支援について、同社で中心となり進めるコーポレートブランド部門 オリンピック・パラリンピック推進課の鳥山聡子氏に聞いた。

オリパラのパートナーに就任。しかし感じた、「モヤモヤ」

「DE&I」とは、ダイバーシティ(多様性)、イクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)の略語で、性別や年齢、障がいの有無、国籍や信条、職業や学歴などによらず、それぞれの個性を尊重して認め合い、持続的な社会を実現していく取り組みのことを指している。

多様性のある企業は生産性も高く、またそれ故に市場からも評価されやすいなど、DE&Iの推進は近年の企業の重要課題の一つだ。

ブリヂストンとしてDE&Iに取り組もうとしたのは、どのような経緯なのだろうか。コーポレートブランド部門でオリンピック・パラリンピックのアクティベーションを統括する烏山氏はこう語る。

「きっかけはパラリンピックのパートナーとなったことです。当初は、世界が注目するイベントをサポートすることで、グローバルブランディングに取り組むという目論見がありました。弊社はかねてから『すべての人の足元を支える』とうたっており、"すべての人"ですから、もちろん障がいを持っている方々も含まれるわけです。

ですが、その後、パラアスリートとの関係を深めて、パラリンピックのパートナーシップについて考えを進めていくにつれ、私の中には何か『モヤモヤとした気持ち』が湧き上がってくるのを抑えられなかったんです」

株式会社ブリヂストン コーポレートブランド部門 オリンピック・パラリンピック推進課 課長 鳥山聡子氏

多くの場合、企業が社会貢献的な活動をする際には、CSR(企業の社会的責任)という名のもと、事業とは直接関係のない形で社会に還元をしていく。鳥山氏は、ブリヂストンのオリンピック・パラリンピックのパートナーシップも、こうした慈善的な活動に終始しかねないことに違和感を抱いたというのだ。

そこで現在は、パラ支援を企業のDE&I戦略の一つとして捉え、取り組みを進めているのだという。

「ブリヂストンではDE&Iへの取り組みをブランディング、インターナルエンゲージメント、イノベーション創出の3軸で展開しています。

ブランディングとしては、パラアスリートは何らかの不自由がありながら――この『不自由』という言葉は彼らがよく使う表現ですが、それを乗り越え、時に強みとしながら世界レベルでスポーツに挑戦しているというストーリーがあります。そのストーリーへの共感を通じ、支援をしている当社ブランドへの共感も醸成していくという仕組みです。

しかし、ここが先ほどの『モヤモヤ』につながるのですが、実は、障がい者が不自由なのは社会の方に問題があるからで、今の世の中がいかに『健常者前提』で作られているかということに他なりません。そこで、この前提に対してきちんと問題提起をする。そして、それを解決するために当社のテクノロジーを活用していくというストーリーが打ち出せればベストだと考えたんです」

パラスポーツと事業、ブランドをつなげていく

ブリヂストンは車いすテニスのタイヤ開発も手がける。アンバサダーの田中愛美選手(写真)は東京2020大会に出場。

とはいえ、障がい者の支援を直接的にビジネスにつなげていくのは難しい。特に大企業の場合、マス向けの製品開発が求められるため、マーケティングに合致せずに、ビジネスとしては遠回りになる可能性がある。

「障がい者支援やパラアスリートのサポートというのは、一人ひとりの障がいの状態が違うので、パーソナライズが欠かせません。仮に支援のための商品を開発しても大量生産に向かなかったりして、大きなスケールのビジネスには向かないことが多いんです。ビジネス的なメリットがないと、企業としては長くサポートできない恐れもあって、サステナブルな支援にならないんです」

そこでブリヂストンは、自らがパラスポーツをサポートする意義を、より本質的に深掘りしていった。たどり着いた仮説は、「障がい者の不自由さは、健常者にも共通する社会全体の課題なのではないか」ということだった。

「日本は超高齢化社会に向かっています。歳を重ねて体が動きにくくなっていけば、障がい者にとっての不自由さは高齢者にとっての不自由にもなり得ますよね。また、そうした不自由を解消することで、もしかすると実は健常者の生活にも潜んでいた課題が見つかるかもしれない。

障がい者の抱える課題を解決することは、障がいの有無に関係なくすべての人の将来を切り拓くことにもつながるかもしれないわけです。そこを、当社の技術的なイノベーションで突破できないかと考えました」

インターナルのイベントで、社内に横串を通す

鳥山氏が口にした2つ目の「インターナルエンゲージメント」は、企業に対する従業員のコミットメントを高めることだ。多くの企業が生産性の向上や社員のロイヤルティを高めるために、従業員に対しての情報発信などに力を入れている。

「インターナルエンゲージメントは、社内へのマーケティングともいえます。いかに従業員が自社に誇りを持って働けるか、自分たちが取り組んでいることに意義を見いだせるかが重要です。

そこで当社では、ブリヂストンのアスリート・アンバサダーを務めるアスリートたちと従業員がオンライン・オフラインで触れ合える機会を様々な形で作ってきました。特に現在力を入れているのが、そうしたアスリート・アンバサダーと各界で活躍を続けるゲストがトークセッションを繰り広げる『Dream Studio』というオンラインイベントです。今年からは従業員にも参加してもらい、何か気付きを得てくれることを期待しているんです」

ロボット研究者の吉藤オリィさん(中央)が「OriHime」を披露。会場では約20名の従業員が「社内公開収録」に参加した

8月28日に公開となった最新回では、「テクノロジー×DE&Iは、私たちの社会をどう変えるのか?」をテーマに、ロボット研究者の吉藤オリィさん、女優・タレントのMEGUMIさん、ブリヂストンでソフトロボティクスの事業化を推進している音山哲一さん、そしてブリヂストンのアスリート・アンバサダーでパラアルペンスキー選手の狩野亮さんが登壇。

話題の中心となったのは、吉藤オリィさんが開発した分身コミュニケーションロボット「OriHime(オリヒメ)」と、彼らが活躍する「分身ロボットカフェ」。ロボットは遠隔操作が可能で、それを遠く離れた地にいる外出が困難な人たちが操り、実際にカフェの店舗でお客さんにサービスを行っているというものだ。

OriHimeの特徴は視線のみでさえ操作が可能な精巧さで、仮に上肢に障がいがあったり、寝たきりであってもロボットを通して外の世界とコミュニケーションをとることができることにある。「身体の拡張」ともいえる技術で、今後、より多くの障がいを持つ人やパラアスリートにも応用されていくことが期待されている。

イベントはロボティクス事業のヒントにも

株式会社ブリヂストン 探索事業開発第1部門長 音山哲一さん

イベントでは、ブリヂストンで新規事業のソフトロボティクスを推進するプロジェクトメンバーにとって、非常に刺激的だったようだ。ソフトロボティクスの事業化を推進する、探索事業開発第1部門長の音山哲一さんも、考えを深めるいい機会になったと語る。

「私たちは、タイヤや油圧ホースの技術を適用したゴムチューブを使ったラバーアクチュエーターの事業化を進めています。簡単にいえば、やわらかいロボットの『手』を作っているんですね。

現在、ロボティクスの業界課題として、センサーやAIなどが発達して人間の『目、脳』に当たる部分はかなりいい線までいっていますが、肝心の『手』の部分が遅れているんです。ですから、私たちはラバーアクチュエーターを活用したソフトロボットハンドがそのソリューションになりうるべく開発を進めています。

これまで事業化を進める中では、DE&Iという観点で考えることはあまりありませんでしたが、今回のイベントで話題となった『身体拡張』という考え方では、日常の身体操作からパラスポーツのような高いレベルのパフォーマンスまで、幅広い可能性を秘めていると感じましたね」

新しい価値を創出することこそ、企業の存在価値

ブリヂストンがDE&Iの軸にする3つ目の「イノベーション」に関しては、今やどの企業でも大きなテーマとして取り組んでいる。将来的なビジョンを見据え、企業の行く先を指し示す役目を果たしていくものとなりうる。

ブリヂストンはパラスポーツへのサポートを通して、どのようなイノベーションを目指しているのだろうか?

「パラスポーツはパラリンピックで注目を集めましたが、これを一過性にしたくないんですね。極限の状況で高いパフォーマンスに挑戦するパラアスリートの視点や経験を、できるだけ多くの人に自分に置き換えて考えてもらい、自分との接点を見つけてもらいたい。そして、今まで持つことのなかった視点に気づくことが重要だと考えています。

イノベーションは、価値の掛け合わせから生まれますから、Dream Studioでも、社内を巻き込んで、従業員に事業との接点を見つけてもらっています。そうすることで、当社のテクノロジーと掛け合わされてイノベーションが生まれてくるのだと考えています」

ブリヂストンが開発したソフトロボットハンドを遠隔操作する MEGUMIさんとパラアスリート・狩野亮さん。こうした「異質」な組み合わせもDream Studioでは積極的に取り入れている。

イノベーションの源泉はすでにあるものごとの掛け合わせだともいわれるが、人は誰でも自分の固定観念にとらわれ、新しい価値観を排除してしまうことがある。そうした頑なな姿勢からは新しいものは生まれない。

ブリヂストンは長くパラスポーツを支援しているが、それは、パラアスリートにしても同様だと鳥山氏は指摘する。

「パラアスリートは、困難を乗り越えて挑戦するという強いストーリーを持っています。それだけに、そのストーリーの『一本足打法』になってしまう人もいます。

しかし、アスリートも自分の持っているものと他のものを掛け合わせて、新しい価値を生み出すことのできるような視点を持てると、さらに将来の可能性が拡がります。私たちの取り組みを通して、新たな社会との関わり方を考えるきっかけになればいいなと思いますね」

「やわらかい頭で考えて、まじめに実行していく」

「職人気質の社風に、イノベーションを掛け合わせていく」と鳥山氏

こうした取り組みを、日本を代表する企業であるブリヂストンが行う意義は大きい。東京2020オリンピック・パラリンピックのレガシーが叫ばれる中、スポーツの支援活動に陰りが見える企業もあり、なおさらその位置付けが問われている。

「当社はある程度の規模のある会社なので、その発信力や巻き込み力を活かしていこうと思っています。機動力のあるベンチャーなどに比べると、大きいだけに動きづらいところもありますけど(笑)。

でも、職人気質のある社風なので、その実直さにイノベーションを掛け合わせれば、新しい価値を生み出せるはずです。やわらかい頭で考えて、まじめに実行していくということですね。

そして、CSR的な社会貢献活動としてだけではなく、企業の存在価値として取り組んでいくことが大切だと考えています。社会に対して、価値を創出していくという企業としての責務を果たしていきたいですね。そのパートナーのひとつとして、パラスポーツがあるのだと捉えています」

企業の取り組みは、「商品を開発した」「サービスを開始した」というように、何らかの結果が出たときに公にされることが一般的だ。しかし、ブリヂストンのDE&Iへの取り組みは、その過程を公開し、社内外の多くのステークホルダーを巻き込んでいくという手法をとっている。物語の過程を見せていくことで、関わる人により理解と共感を深めてもらうというアプローチにあえて挑戦する姿に、ブリヂストンの本気度を見出すことができる。

■ソフトロボティクス事業特設ウェブサイト『ブリヂストン Softrobotics Lab』

■ソフトロボティクスビジョン動画『ブリヂストンのソフトロボティクス事業ビジョン』

本記事はHALFTIMEで掲載されたものです。

https://halftime-media.com/interviews/bridgestone-dei/
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