Number × TEAM BRIDGESTONE [日本アイスホッケーの未来を背負って] スマイルジャパン「心をひとつに」

Number × TEAM BRIDGESTONE [日本アイスホッケーの未来を背負って] スマイルジャパン「心をひとつに」

過去2回出場したオリンピックでは1勝も挙げることが出来ず、注目を集めることが少なかったアイスホッケー女子日本代表。平昌2018冬季オリンピックでの〝メダル〟にこだわる理由を、主力3選手が語った。

平昌2018冬季オリンピック前に、スポーツ総合誌「Sports Graphic Number」とTEAM BRIDGESTONEとのタイアップ企画が実現。「Number」945号( 2018年2/1発売 )および「NumberWeb」に掲載されたSMILE JAPAN主力3選手へのインタビューを転載します。

松原孝臣=文 text by Takaomi Matsubara 
鈴木七絵=写真 photographs by Nanae Suzuki

  • 大澤ちほ
    Chiho Osawa

  • 藤本那菜
    Nana Fujimoto

  • 鈴木世奈
    Sena Suzuki

今も4年前を忘れられない。

「自分たちの実力のなさを突きつけられました」
当時も、そして今もチームの主将を務めるフォワードの大澤ちほはそう振り返る。
2014年2月。アイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」は、日本にとって1998年の長野冬季大会以来16年ぶりの出場となるオリンピックの地、ソチに足を踏み入れた。長野のときは開催国として得た出場権だったから、自力で出場を勝ち取ったという意味では、初めてのオリンピックだった。
チームは「メダル獲得」を目標に掲げ、大会に臨んだ。
だが、現実は峻烈だった。予選リーググループBの初戦でスウェーデンに0─1、第2戦のロシアには1─2と惜敗、この時点で予選リーグ敗退が決まる。その後も第3戦のドイツ、順位決定予備戦のロシア、7・8位決定戦のドイツに敗れ、5戦全敗で大会を終えた。
スウェーデン、ロシアといった強豪を相手に食い下がる場面も見られたが、1試合も勝てなかったという結果は変わりようもなかった。メダルとの距離は、あまりにも遠かった。

現実をかみしめたのは大澤だけではなかった。
「単純に実力不足を実感した大会でした」ゴールキーパーの藤本那菜が言えば、ディフェンダーの鈴木世奈もこう語る。
「ひとことで言えば、悔しい、しか覚えていないくらい悔しかったです」
忘れることのない悔しさは、出発点でもあった。このままではいられないと考えた彼女たちは、自身の成長を志した。
藤本はアメリカのアイスホッケーリーグ「NWHL」のチーム「ニューヨーク・リベターズ」と2015年7月に契約し、海外へと活動の場を移した。
「ソチが終わって、世界に目を向けないといけないと感じました。2015年の世界選手権でベストGK賞をいただきオファーがあって、新たな選択肢ができました。視野を広げた方がプラスになるし、日本代表にもプラスになる、だからチャレンジしようと思いました」
チームではレギュラーを獲得。体格に勝る選手たちを相手にしながら、オールスターゲームのメンバーにも選ばれる活躍を見せた。
鈴木は2015年10月、カナダリーグ「CWHL」のチーム「トロント・フューリーズ」に加入し、2シーズン、プレーした。
「高校生の頃から海外のチームでプレーしてみたい気持ちはありましたが、ソチでまだまだ自分たちのレベルじゃ足りない、もっと経験をしないといけないと感じて、チャレンジしました」
チームには金メダルを獲った選手がいた。「何でもいいから盗もう」と考え、一緒にトレーニングさせてもらい、食生活など細部にわたるまで学んだ。

ゴールを死守するのは世界有数のGKと評価される藤本那奈

みんなで助け合わなければならない

選手それぞれにレベルアップを図る一方で、チームとしての土台を築いていった。その核となったのは、コミュニケーション、チームワークを大切にすること。
大澤は言う。「日本代表の特徴はスター選手がいないことです。海外を見ていると何人かのスキルの高い選手がいて、その選手が点を獲ったりチャンスを作るチームも多いですが、日本は誰かに頼って勝てるというわけではありません。また、身体が小さい分、フィジカルの強い相手に対しては2対1の状態である場面を多くしていかないといけません。みんなで助け合わなければならない。チームとして戦うためにもチームワークが大切です」
選手間の関係が薄れていると感じた時期もある。そのときには選手と選手とでバディー(相棒)を作って毎日、互いに連絡を取らせるようにしたり、チーム内にグループを形成してチームに対する役割を持たせて活動させた。
「責任感を持ってもらい、チームのことをもっと考えられるように、という意図からです。以前よりもそれぞれがチームのことを考えられるようになり、お互いにサポートしあう力がついたと思います。それだけじゃなく、もともとは監督やスタッフに言われてやるチームだったけれど、今は選手が主体的に動けるチームになったんじゃないかと感じています」(大澤)
チームへの意識を高め、一体感を築いていった。

FWで主将の大澤ちほは悲願のメダル獲得に向け、チームの一体感を重視。

2016年7月には、山中武司監督が就任。 まずは守備力の安定を図るために堅固なディフェンスを構築し、スピードと運動量の強化も行なってきた。
さらにパスワークに磨きをかけるように努めて得点力向上を目指し、合宿では徹底した走り込みを実施した。後半になって相手の足が止まってきたときでも動ければ優位なポイントとなる。それらはフィジカルに勝る海外勢に対峙し勝利するための方策だった。
こうした強化の流れの中、2017年2月、平昌2018出場権をかけた最終予選グループ3試合で全勝をおさめ、オリンピックへの切符を手にした。ソチ2014冬季大会出場をかけた2013年の最終予選では、敗戦もあり、劇的な勝利もあるという展開を経て勝ち抜いた。それと比べれば、4年間でのチーム力の向上は明らかだった。
2017年12月下旬には、世界ランク4位のロシアとの2連戦が行なわれ、2試合目に2─1で勝利をおさめた。ロシアがフルメンバーであったとは言えなくても、屈指の強豪からあげた1勝もまた、たしかな進化の証だった。世界ランクが上の国々に食らいつく力をつけてきた。
だから今、大澤はチームに手ごたえを得ている。
「体力面も技術面もすべての面で足りないと感じたソチから、全部を上げてこられた4年間です。だからメダルに近くなったと感じられています」

「メダルを獲りたい」に込められた使命感。

今度こそ、メダル獲得を現実のものとする。その思いで厳しい走りこみにも耐え、必死に練習に打ち込んできた。そこまでこだわるメダルとは、どういう存在なのか。
大澤は言う。
「結果を残すことでアイスホッケー界を変えるということが私のいちばんの目的です。ソチのとき、勝てなかったけれど出場することで私たちの環境はとても変わりました。メダルという結果を残せば、もっと変わると思うんです」
2014年のソチオリンピックへの出場が決まったとき、選手たちがピザ屋や居酒屋でアルバイトをしながらアイスホッケーに打ち込んでいることが伝えられ、注目が集まった。かつては海外遠征時に自己負担を強いられることがあったことを考えても、競技に打ち込むには厳しい環境に置かれていた。
3人の中では年長の藤本が振り返る。
「バンクーバーオリンピックの予選の頃、自分は大学生でアルバイトを掛け持ちしてプレーしていましたし、社会人の先輩方もアルバイトをしながら活動している人たちがいました。代表に入れなかったメンバーだと、大学を卒業したら就職するか競技を続けるかの瀬戸際に追い込まれる人たちも間近で見てきました」

DFとして2度目のオリンピックに挑む鈴木世奈はブリヂストンの社員という顔も持つ。

ソチ2014の後、変化が見られた。社員として受け入れる企業が次々に現れたことで競技に打ち込みやすくなった選手が増えたのである。
苦労する先輩や辞めていく選手の姿も見てきた藤本は、メダルへの自身の思いをこう語る。
「ソチの決勝戦のアメリカ対カナダを観に行きました。試合のあとの表彰式を観客席から観ているとき、私もあの場にいたいな、メダルがほしいなと強く思いました。それまでは夢でしか、というか、強く意識していなかったように思います。それに、メダルを獲得することによって付随するものがあると思っています。ソチに出場してから企業さんやいろいろな人にサポートしてもらっています。競技者である以上、プレーで恩返ししたいと思うんです。それはやはり結果ですし、結果として形あるものは何かと考えたらメダル。このチームでメダルを手にしたいですね」
鈴木もまた、メダル獲得へと強い気持ちを向ける。
「メダルを獲りたい理由は2つあります。1つ目は、自分がやってきたことを結果として残したいということです。メダルを獲るために4年間、悔しい思いも抱えながら取り組んできました。今はその時間を形にしたいと思っています。2つ目は、結果を出す責任が私たちにはあると思うからです。結果を出さなければ注目されることも少なくなります。アイスホッケー界の発展のために、次につなげるためにはメダルを獲らなければいけない、そういう気持ちでやっています」

平昌の出場権をかけた最終予選でオーストリア、フランス、ドイツに快勝。日本勢で出場決定一番乗りを決めて歓喜するスマイルジャパン

メダルという結果で、日本アイスホッケーの環境をもっと変えたい

藤本と鈴木、そして日本代表選手全員の気持ちを代弁するかのように、大澤はこう語った。
「今こうやって私たちがいい環境の中でアイスホッケーができているのも、いろいろな経験をしてきた先輩たち、サポートしてくださる日本アイスホッケー連盟、企業さんだったり、いろんな人に支えてもらっているからです。そして今の環境がある。私たちだけの結果じゃないというのは、選手全員が感じていると思います。結果を残せば私たちだけじゃなくいろいろな人が喜んで、サポートしてきてよかったなと思ってもらえます。結果を出すことで喜べたり、変われるのは私たちだけじゃない。いろいろなことが将来につながっているんじゃないかと思っていますし、これからの世代である子供たちに、アイスホッケーってこんな競技なんだと知ってもらえるチャンスでもあります。そのためにはやっぱりメダルを獲ることだという思いでいます」
平昌2018冬季オリンピックのグループBで、日本はスウェーデン、スイス、そして韓国と戦う。決勝トーナメントに進めるのは2チーム。スウェーデン、スイスは世界ランクでは格上、勝ち抜くのは決して容易ではない。それでも彼女たちは心をひとつに、自分たちの注いだ時間を信じて戦う。