技術開発の現場TECHNOLOGY

中央研究所 研究第2部
I.K.
1999年入社
理工学部 機械工学科
機械工学 専攻

※記事の内容及びプロフィールは取材当時(2015年12月)のものです。

その構想は、2008年にさかのぼる次世代低燃費タイヤ技術「ologoic(オロジック)」。
超高性能スポーツカー向けタイヤ足回り技術開発のため、イタリアで3年間、フェラーリとの共同研究に携わった研究者が、地球温暖化対策を視野に入れたエコカー開発へと注力する自動車業界に向けて発表した、社内外を驚かせるタイヤ技術は、原理原則に則って考え、シミュレーションを重ねた末にたどり着いたものだった。

20~30%の性能アップを目標に、エコタイヤの開発に取り組む

超高性能スポーツカーやレース用のタイヤ開発に向けて、運動性能の研究を続けてきた上司と私がエコタイヤに関わったのは2008年のことです。環境にはよいかもしれないけれど、ちゃんと曲がるのか、雨の日は危ないのではないか。当時のエコタイヤは、まだそんな点が懸念されていました。
一般にグリップを高めることと転がり抵抗を下げることは相反することといわれていますが、この2つはいずれもタイヤと路面の接地部分で起きていることです。

私たちはタイヤの接地面の動きを見る専門家として、出したい時にグリップを出し、そうでない時は抵抗を極限まで抑え、世の中があっと驚くようなエコタイヤをつくろうと、性能20~30%アップという大きな目標を掲げて、開発に取り組みました。

タイヤは地面との接地部分で力を出しますが、走行中の車のスピードで、接地面の動きを計測するのは容易なことではありません。そのためブリヂストンが、タイヤ研究と同時に力を入れてきたのがシミュレーション技術の開発です。車が定常的に走っている状況を再現し、タイヤの接地面をセンサーでスキャンするシミュレーション&計測技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」は、タイヤの性能の向上にも大きく寄与しています。

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既成概念に縛られず、力学的観点からメリットを探求してたどり着いた、狭幅・大径・高内圧

狭幅・大径・高内圧。「ologic」の特徴は、この3点に集約できます。
開発を始めた当時、自動車業界では、大型化、重量化した車を支えるにはタイヤも幅広、大径であることが既成概念になっていました。

けれど、太くて小さい、あるいは細くて大きいタイヤは本当に、力学的にメリットがないのか。

タイヤの幅と径の大きさを変えてシミュレーションをおこなうと、タイヤの径が大きく幅が広いほど、転がり抵抗を下げやすいという結果になりました。
一方で、タイヤの幅が広くなると空気抵抗が大きくなることや、転がり抵抗を低減させようと径と幅が大きなタイヤの空気圧を高めるとタイヤが鉄輪のようになってしまう、といったタイヤ本来の機能が失われることがわかりました。

そこでタイヤの幅を狭くするという、今まで誰もやらなかったことを試してみると、「広幅・大径・高内圧」では失うものが大きいのに対して、「狭幅・大径・高内圧」の場合、失うものが少ないことが判明し、いろいろな大きさのタイヤを用意してシミュレーションを繰り返しながら、新たなエコタイヤのコンセプトを確立していきました。

当初は社内でも首を傾げられていたものの、「このタイヤを開発すれば、転がり抵抗は20~30%下がります」と食い下がって、試作工場での実験を開始。幸い試作工場のスタッフには、レース用タイヤの開発時にもお世話になっていたので、今回も上手く連携が取りながら、2009年には最初の試作品が完成しました。

まだ研究段階の特殊なタイヤの試験を実施すると、通常、1~2%下がれば成功とされる空気抵抗が5%下がるという、予想をはるかに超える数値結果が出ました。これを受けて本格的に研究を進めていったのですが、自動車メーカーと共同で行った風洞実験でも同様の結果が出て、第三者に技術を認められた時は、追い風を感じましたね。

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BMWとの連携、ヨーロッパでの技術発表を経てヨーロッパで賛同を得た「未来のタイヤの形」

このようにメーカーの担当者には一様に興味を持ってもらえたものの、形があまりにも特殊なタイヤは、今ある車にそのまま装着することができません。
車の装置・プラットフォームの変更は最短でも5年、通常7~8年かかるといわれています。
工場の生産ラインでは、すぐに合う車をつくることができず、自動車メーカーからは、今ある車に合う形での改良を望まれたものの、このタイヤは形を変えることが技術なのだと伝えて、メーカーにも、一緒に次世代のタイヤをつくっていきましょうと提案を続けました。

最終的にはBMWへの採用が決まり、2013年にヨーロッパで次世代低燃費タイヤ技術「ologic」を発表します。
自動車学会で、タイヤメーカーが技術発表を行うことはあまり多くは見られないですが、ヨーロッパでは、他のタイヤメーカーからも「未来のタイヤの形」という賛同を得て、製品化にこぎつけることができました。

研究者にとって大切なのは、学んだ原理原則と自然科学の法則に従って、諦めずに研究し続けることです。
「ologic」も、原理原則に則って考えたからこそ、周囲から常識外れといわれても、開発に踏み込むことができました。

私は、ブリヂストンは信念と情熱と論理性があれば、最終的にはやりたいことをやらせてくれる会社だと思っています。
まだまだわからないことが多いタイヤの謎を一緒に解明していきましょう。

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