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4分間に全力投入。
ひたすら前へ、ペダルを踏む

近谷涼

  • インタビュー
  • 自転車競技・トラック
近谷涼

時速60kmを越える速さで急傾斜のバンク(走路)を周回し、スピードやテクニックを競う自転車・トラックレース。スピード種目の花形「個人追い抜き」の日本記録保持者、近谷涼選手は、サドルにまたがれば、今、日本最速の男だ。近谷選手が追いかけてきた夢、そして、東京2020オリンピックにかける思いを聞いた。

緻密さとダイナミズムと

近谷選手

2017年5月の日本選手権で「4km個人追い抜き(※)」2連覇を達成した近谷選手。今、新たなる目標として見据えているのが、東京2020オリンピック、世界の舞台だ。出場を目指す種目の一つに、「団体追い抜き」がある。

個人追い抜きの団体版であるこの種目では、1チーム4人の選手たちが縦1列になってトラックを走る。風圧による減速と疲労を避けるため、先頭を交代しながらレースを進めるところが特徴だ。トラックの内側ギリギリをタイトなフォーメーションで走る緻密さ、そして、コーナーで先頭の選手が大きくコースを外れ、最後尾に回るときのダイナミックな動きの両方が見所となる。

「スピードの維持や車間、先頭交替などいろいろな要素が絡み、ちょっとした狂いが(タイムに)響いてくるので、チームワークが重要です。常に意思疎通ができてないといけなくて、例えば、通常は1周で先頭を交代しますが、選手の調子によって半周のときも、2周半のときもあります。前の選手がいつ上がるのか、そのタイミングを読んで次に踏む準備をしておく必要があるのです」

まずは東京2020オリンピック出場権の獲得。そのためには、アジアで1位にならなければいけない。
「ひとつの目標は、タイムで4分を切ることです。僕らチームのベストタイムは4分3秒で、韓国や中国は4分1秒とか4分とか。この、"あと3秒、4秒"の壁が厚くて、今必死なんです。オリンピックまであと3回世界選手権がありますし、アジア大会では早速来年から優勝を狙っていきます」

※ホーム・ストレッチ(ゴール側)とバック・ストレッチ(ゴールと反対側)から2名の選手が同時にスタートし、前にいる対戦相手を追い抜くレース。実際にはよほどのトラブルがない限り追いつくことはなく、4kmの完走タイムによって勝敗が決まる。

近谷選手

自分と向き合い自分に打ち克つ

近谷選手

追い抜き競技の魅力について近谷選手は、「駆け引きも何もなく、全力で、ひたすら前に進むシンプルさ」だと話す。
「対戦相手やタイムというより、自分との闘いですね。どうしても後半はキツくなり、4kmのうち2kmあたりからもう漕げなくなってきます。でも、実はそこからが僕の持ち味。一瞬でも気を緩めるとふわっとなって一気にタイムが落ちてしまう、そうしたキツさの中でどこまで頑張れるのか、自分の限界に挑んで楽しんでいる部分があるんです」

そんな近谷選手を先輩たちは「変だ」といってからかうそうだが、ルーツは、高校時代の過酷ともいえる部活練習にあると思っている。

近谷選手 近谷選手

プロ選手でも多くて170〜180kmというロード練習を300km行ったり、室内で1日に8時間ローラー台の自転車をこぎ続けたり。顧問の教師の指導も厳しく、耐えられずにみんなが辞めていく中で、近谷選手はどんなにイヤでも辛くてもやり遂げた。

「怖くて逆らえなかったんです(笑)。でも、当時はまだ今のように自転車と一体になりきれてなくて、先生も、サドルの上にいる絶対的な時間が必要だと判断したんでしょう。そこでたぶん、逃げないことを覚えたんだと思います」

自分の弱さと向き合い、自分に打ち克つという体験を繰り返し、それこそが成長に結びつくという感覚が、このとき近谷選手の骨の髄までしみこんだ。

「一人黙々とペダルを漕ぎ続ける練習で、妥協しようと思えばそれもできます。でも、しない。今につながる僕の基本です」

近谷選手

勝つための練習を

近谷選手

むろん、先生が厳しいだけでは上へはいけない。近谷選手には「日本一」という大きな夢があった。それは苦い挫折感から始まる。
自転車競技に専念するため地元外の県立高校に進学したものの、全国はおろか北信越の試合ですら歯が立たなかった。
「周りはこんなに強いんだ。自分はあれだけ練習しているのに及ばないんだ」と実力の差を思い知らされ、ふと、毎日のように顧問の教師から言われていた言葉の意味がわかったという。
「ただの練習じゃない、勝つための練習をしろ、と言われ続けていたんです」

競技に対する姿勢、練習に向き合う気持ち。すべてが変わったという近谷選手。2年生では種目を競輪から個人追い抜きに転向し、インターハイでも順調に結果が出始めた。
「これなら頂点だって目指せる」

それからの近谷選手は全国大会優勝という明確な目標のもとに練習を積み、挑戦を繰り返すことになる。高校最後のインターハイでは惜しくも2位。大学の大会でも2位や3位に留まることが多く、あと1歩のところで届かないもどかしい時代が続いた。

不安もよぎるが、ここで諦めるわけにはいかないし、そんな自分は許せない。4年生でやっと、インカレ4km個人追い抜きで優勝。ロード(チャレンジサイクルロードレースU23)でも優勝を果たすことができた。
「結果は予想がつかないが、日々ベストを尽くす」
近谷選手の気持ちの強さが勝った瞬間だ。

近谷選手 近谷選手

競技人生のすべてを賭けて

近谷選手

今や自転車競技界の頂点に立つ選手の一人として、全国のサイクリストから憧れられる存在となった近谷選手。
体力と精神力を極限に追い込む厳しい自転車競技を、ここまで続けてこられたのは----。

「なんだかんだいって、好きなんですよね。今でも、山を速く登れるようになったとか、ギアが踏めてスピードが出るようになったとか、成長を感じられると嬉しくて、もっと長い時間、もっと速く走れるようになりたいと思うんです」

原点にあるのは、小学生のとき両親に連れられて石川県立自転車競技場に行き、初めてバンクの傾斜を体験したときの感動だ。
「遠心力でコーナーでもスピードを落とさずに走れるのが楽しくて、嬉しくて。両親にもう帰ろうと促されてもなかなか帰らず、ずっと、ひたすら走っていました」

そのときの感動が、自転車少年だった近谷選手をここまで連れてきた。
東京2020オリンピックの舞台は、走り慣れた伊豆ベロドロームのバンクだ。大観衆の声援を受けて走りたい、それ以上に、両親や先生、友人、お世話になったすべての人に、成長した自分の姿を見てもらいたいという思いが強いという。
「わずか4分。そこに、僕の競技人生のすべてを注ぎ込むつもりです」

近谷選手

PROFILE

近谷涼

近谷涼RYO CHIKATANI

1992年生まれ、富山県出身。幼少期から自転車が好きで、中学生から本格的に自転車競技を始める。2019年全日本自転車競技選手権大会にてチームパシュートで日本新記録を更新。2020年アジア自転車競技選手権大会トラックにて同種目で優勝。2017-2018 UCIトラックワールドカップ第4戦 においても同種目で2位を獲得。

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    近谷涼✕窪木一茂✕橋本英也 スペシャル対談

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