発泡ゴムタイヤの運命を変えた1本の缶コーヒー

前回、タイヤに気泡を入れるという技術開発は苦労の連続だった、と開発者である山口宏二郎から聞くことができました。そのインタビューのなかでちょっと面白いエピソードがありました。それは“運命を変えたのは1本の缶コーヒーだった”という話です。

「発泡ゴムタイヤの開発は本当に苦労の連続でした。タイヤのカタチにするのも大変でしたが、カタチにしたあともまた大変でした。というのも、なかなか氷上で狙った性能が発揮できなかったのです。開発を加速させるために、夏場でも氷上試験が出来るところとしてスケートリンクでの実車試験を考えたのですが、当時はリンクを車で走る!という発想はなく、ことごとく断られてしまいました。唯一、軽井沢のスケートリンクでの許可を得ることができ、2日間貸し切りで行ったテストも、性能が出せず頭をかかえる1日からスタートしました。そんな時、あるエンジニアがタイヤの表面を削ってみようと、缶コーヒーを買いがてら近くのワインディングを走って戻ってきました。そしてひと息ついて再びスケートリンクを走ってみると・・・私たちが狙っていた氷上性能が発揮できたのです」

表面を削って、氷上グリップを向上

発泡ゴムの気泡は家庭で使うスポンジのように目視できる大きさではありません。実は頭を抱えていた理由は、まんじゅうの薄皮のように表面を覆う層で、これを剥くとしっかりと気泡が出て氷上でのグリップを大きく向上することがわかったのです。開発チームは、その発見から製造技術をさらに磨き、幾度もテストを重ね、初代ブリザックの販売にこぎつけたと言います。材料の基礎開発から商品のリリースまで実に7年、この間にはこんな偶然ともいえる発見がターニングポイントになっていたのです。

「私たちは1988年の初代ブリザックの販売開始後も発泡ゴムの技術を進化させ続けています。現在は9世代目となる「BLIZZAK VRX」を販売しており、冬の路面に求められる氷上性能は1982年の初代スタッドレスと比較すると実に3倍に向上、つまり制動距離は1/3にまで短くなっています。しかし氷雪上ではまだまだタイヤは滑ります。私たちはこれからも発泡ゴムを核として技術を磨き、冬用タイヤの性能を向上させていかなければなりません」

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