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1992~2000年

第9章 優良企業への復帰とグローバル化の推進、そしてBFS自主回収問題

第9章 優良企業への復帰とグローバル化の推進、そしてBFS自主回収問題 1992~2000

第7節 BFS、PSR650万本自主回収へ

第1話 事故が明るみになった経緯

1999年6月、米国テキサス州ヒューストンで、フォード社のSUV、エクスプローラーを運転していたテレビ局の記者が、横転事故により死亡しました。テレビ局はその原因をタイヤのトレッド・セパレーションにあると報道しました。2000年2月になると、アメリカのテレビ局が、ファイアストン製のタイヤを装着したエクスプローラーが横転事故を起こし、多くの死傷者が出ていることを報じました。共通する現象として、夏の暑い日、南部の州で高速道路を走行中にタイヤの表面がはがれると報道されました。
事態を重く見た米国高速道路交通安全局(以下、NHTSA)は、2000年5月2日、BFSが製造した約4,700万本のATX、ATXII、ウィルダネス(WILDERNESS)タイヤの欠陥調査を開始しました。

第2話 自主回収

事故の原因が特定されていない中、BFSでは安全を保障するとともに、顧客の不安を解消するのが先決だと考えました。そこで2000年8月9日、調査対象となった1,440万本のタイヤを自主回収することを発表しました。これらのタイヤについて、無償で交換するとともに、他のメーカー製品に交換した顧客に対しても、その費用を支払う対策を講じました。

自主回収支援のためタイヤを緊急輸送

第3話 当社からの支援

自主回収の発表以降、当社グループは総力をあげて、当該タイヤの回収と代替タイヤへの交換に取り組みました。代替タイヤはBFS北米工場で増産したほか、早期自主回収を万全に支援するため、親会社である当社でも緊急増産し、ジャンボ機のチャーター便などあらゆる手段を使い輸送しました。その結果、自主回収は順調に進み、開始から4ヵ月後の11月には、ほぼ回収することができました。

第4話 公聴会

2000年9月6日、米国議会下院で公聴会が開かれました。フォード社側は、ファイアストンのタイヤに原因があると主張しました。それに対してBFS会長兼CEOの小野正敏は、NHTSAが調査結果を明らかにしていないことから、原因には触れず、問題の原因を究明し、十分な説明を行うことを最終的な目標とすることなどを語るにとどめました。ところが米国のメディアは、小野の、事故の犠牲者に対するお悔みの言葉を「品質問題に対するお詫び」だと曲解し、非を認めたとして報道しました。
9月12日には上院商業・小委員会が開かれ、BFSのジョン・T・ランペ(John T. Lampe)副社長が証言台に立ちました。ランペは回収したタイヤがトレッド・セパレーションを起した確率はわずかであると明言しました。そして、独立した第三者の専門家、カリフォルニア大学バークレー校のサンジャイ・ゴビンジー博士(Dr. Sanjay Govindjee)らに調査を依頼することを述べました。
更に9月21日には、下院通商委員会監督・調査小委員会、及び電気通信・取引・消費者保護小委員会が開かれ、ランペ副社長は、フォード社がエクスプローラーのタイヤに指定している26psiという空気圧では、他のSUV車と比較してセイフティ・マージンが低いこと、そして、低内圧・高荷重、暑い地域で走行させることが、問題の重要な要因になっていることなどを述べました。また、エクスプローラー用のタイヤの空気圧を30 psiに変更するよう、フォード社に書面で要請したことも明かしました。

第5話 根本原因の調査

当社ではトレッド・セパレーションの原因を特定するために、専門チームをBFSに長期出張させ、使用条件や車との相互関係といった外部要因も含め、さまざまな要因に焦点を当てて調査を開始しました。

第6話 ランペ、BFSのCEOに就任

2000年10月10日、小野会長に代わって、ランペ副社長が会長兼CEO(最高経営責任者)兼社長に就任しました。ランペCEOは、以下の3つの主導事項を含む緊急アクションプランを発表しました。

  1. 1自主回収対応の更なる迅速化
  2. 2新しいマネジメント・チームの構築
  3. 3製品性能データの新しい検証方法の開発

なお、自主回収への対応は、2001年8月29日をもって交換プログラムを正式に終了することができました。

第7話 製品性能データの新しい検証方法の開発

BFSは、自動車とタイヤの正確な相互作用について完全に理解し得る製品性能データの新しい検証方法の開発に取り組み、使用条件、経年変化なども含め、より厳格化した品質保証水準を策定しました。これは後にブリヂストングループの世界標準となりました。

第8話 根本原因の発表

BFSは、2000年12月19日、4ヵ月間集中的に実施した調査の結果を以下の通り発表しました。
『何百万本ものタイヤデータを検証した結果、複数の要因が極端なケースで複合されて働いた結果、トレッド・セパレーションを増加させることがあり得る。
自主回収の対象となったタイヤは、米国の安全基準もフォード社の要求基準も満たしており、調査結果からもタイヤの欠陥を示す要因は出てきていない。
更に、タイヤがトレッド・セパレーションを起こしても、通常の場合は、ほとんど死亡事故には至らないため、トレッド・セパレーションは、事故の原因の一部ではあっても、主因ではないとの判断から車両事故とタイヤの因果関係についても調査したところ、エクスプローラーでは、タイヤ破損以外に起因する横転事故が多発しており、他社タイヤ装着車でも事故が発生していることが判明した。』
BFSの発表から約2ヵ月後の2001年2月に、サンジャイ・ゴビンジー博士の分析が終了しました。ゴビンジー博士は、「全てのケースにおいて、自主回収の対象となったタイヤの不具合率は、わずか数パーセントであり、タイヤの不具合を招いた単一原因を解明しようと望むことは現実的ではない」と述べ、分析結果を発表しました。
こうしたBFSの調査と第三者に委託した調査の結果は、次第に有効に作用し始め、当初「タイヤに原因がある」としていた米国の世論が、次第に「タイヤだけが原因ではない」という方向へと転じ始めました。