環境 | 資源を大切に使う

アクション3:再生可能資源の拡充・多様化

考え方

原材料の使用量を減らし(アクション1)、資源の循環利用を進める(アクション2)だけでは、世界で増え続ける需要に対し、必要な商品・サービスを安定供給することは困難です。これらの取り組みに加えて、商品の原材料となる再生可能資源を拡充・多様化することで(アクション3)、持続可能な社会の実現に貢献できると考えています。

ブリヂストングループが取り組む「100%サステナブルマテリアル化」は、地球の自浄能力・扶養力とのバランスを前提にしていますが、単に再生可能でない資源を植物由来の再生可能資源に切り替えるだけでは不十分だという考えに基づいています。

当社グループにとって、天然ゴムは重要な天然資源であり、環境・社会・事業の各面において持続可能性を高める必要があると認識しています。このため、様々な方法で天然ゴムの持続的な利用に向けた取り組みを行っています。新たな技術の開発などを含む、天然ゴム農園における生産性向上に向けた取り組みを進めるとともに、「グアユール」をはじめとする新たな天然ゴムの供給源の開発を通じた再生可能資源の多様化に取り組んでいます。このように、生産性向上と供給源の多様化という両輪により、供給源の持続可能性の向上に努めています。

小規模農家の生産性向上支援については「貢献の最大化」をご覧ください。

※当社グループでは、「継続的に利用可能な資源から得られ、事業として長期的に成立し、原材料調達から廃棄に至るライフサイクル全体で環境・社会面への影響が小さい原材料」をサステナブルマテリアルと位置付けています。

新しい再生可能資源に「拡げる」技術

天然ゴムは、タイヤ主原料の中で大きな割合を占めます。現在工業的に用いられるほぼすべてがパラゴムノキという植物から産出されていますが、パラゴムノキの栽培地域は赤道直上を中心に南北の狭い範囲に限られ、現在では、その93%が東南アジアに偏在しています。熱帯雨林の保護、病害リスクの低減などを考慮すると、パラゴムノキ自体の生産量を増やす取り組みと、より広い地域で栽培可能な代替植物の研究が求められます。

当社グループは、その代替植物としてグアユールから天然ゴムを商業規模で採取することに成功し、さらなる改善のため研究を行っています。

※ ブラジル原産のトウダイグサ科パラゴムノキ属の常緑高木。幹から得られる乳液(ラテックス)に天然ゴムが含まれる。

将来の天然ゴム供給源の多様化に向けた取り組み

グアユール

グアユールゴムの加工研究所「バイオラバープロセスリサーチセンター」

天然ゴムは、タイヤの重要な原材料の一つであり、パラゴムノキから生産されています。しかし、パラゴムノキは生育地が地理的に集中しているため病気や気候変動の影響を受けやすく、栽培に多くの人手を要するといった課題を抱えています。

そのパラゴムノキの代替原料として期待されているのがグアユールです。グアユールは、米国南西部からメキシコ北部に広がるチワワ砂漠に自生するキク科の低木で、干ばつ耐性が高く、寒さに耐えるために樹皮層にゴム成分を蓄積します。パラゴムノキ由来のゴムに匹敵する成分を持ちながらも、パラゴムノキと異なり、砂漠のような乾燥地帯で栽培できることから、グアユールは異なる植物種や気候帯へと天然ゴムの供給源を多様化させるソリューションとして、大きな可能性を秘めています。また、グアユールの栽培は食用作物と競合せず、収穫の機械化が可能という優位性があります。さらに、グアユールを多く植えることで、CO2を吸収する緑地の拡大にもつながります。

「Bridgestone E8 Commitment」の「Ecology 持続可能なタイヤとソリューションの普及を通じ、より良い地球環境を将来世代に引き継ぐこと」にコミットし、グアユールの実用化に向け、ブリヂストングループは、2012年にグアユールの研究活動を開始して以来、グアユール由来の天然ゴムを活用したタイヤの開発やオープンイノベーションを通じた増殖技術研究など、栽培、加工、タイヤへの使用に関連する知見を蓄積してきました。

ブリヂストン アメリカス・インク(BSAM)は、2030年までの追加投資と拡大計画に基づき、グアユール由来の天然ゴムの実用化に向けて4,200万ドルを新たに投資する計画です。また、地域の農家やアメリカ先住民族の方々との協力のもと、新たに最大25,000エーカー(約100k㎡)の植栽を実施し規模の拡大を図ります。

さらに、米国アリゾナ州中部で水不足の深刻化により不作となっていた農地をグアユール収穫用に転換する取り組みを地元農家との間で拡大しており、2023年には新たに350エーカー(約140万㎡)のグアユールの植栽を予定しています。この取り組みは、同地域で灌漑に用いるコロラド川の水不足の解決に積極的に取り組んでいるNGOのEnvironmental Defense Fundと合意し、実現したものです。グアユールの2026年の実用化、2030年の本格的な生産・事業化を目指し、引き続き取り組みを推進していきます。

これまでの研究活動
  • 2012:研究活動を本格的に開始
  • 2013:米国・アリゾナ州にグアユール研究農園を設立
  • 2014:米国・アリゾナ州に研究施設Biorubber Process Research Center設立
  • 2015:グアユール由来の天然ゴムを使用した試作タイヤ完成
  • 2015-2018:グアユール加工技術の確立推進
  • 2018:米国農務省の国立食品農業研究所から、研究開発支援対象として選定
  • 2022:米国エネルギー省の共同ゲノム研究所から、グアユール収量最適化のための研究助成金を受領

新しい資源であるグアユールには、新たな栽培、収穫、加工のプロセスが必要です。当社グループは、すでに1エーカー(約4,000m2)当たりのゴム生産量を最大化する栽培方法を確立し、ゴムの抽出プロセスの実証に成功しています。また、グアユールから抽出されるゴム以外の副産物についても、市場における潜在的なニーズ・用途を確認しています。

グアユールの加工では、天然由来で持続可能なゴムに加えて、他の産業にとって有益な副産物が生み出されます。当社グループは、その副産物を最大限に活用するため、農業やエネルギー、化粧品などを取り扱う企業、非営利団体、投資家、政府などのパートナーと新しいエコシステムを構築し、知識の共有、市場の開拓、リスクの低減を図っています。

当社グループは、オープンイノベーションと共創により生物多様性に貢献するこのプロジェクトを通じて、天然ゴム供給源の多様化や、天然ゴムサプライチェーンにおけるリスク低減、天然ゴムの持続可能な生産に向けた取り組みを推進していきます。

様々なステークホルダーと連携したグアユール研究

BSAMは、2017年にイタリアのVersalis社と提携し、最新の遺伝子技術を駆使したより生産性の高いグアユール品種の開発を目指しています。この共同開発提携は、ブリヂストンのグアユール農学、農業バイオテクノロジー、製品製造技術の先駆的な立場を活かし、これにVersalis社の持つ再生可能資源のプロセス工学や市場開拓における強みを融合させたものです。

また、BSAMは2017年以降、4年間にわたり、ゲノムのビッグデータ・ソリューション企業であるNRGene社とともに、商用化を目的とするグアユールの品種改良に向けた共同研究を行ってきました。BSAMは2021年1月、両社が複雑なゲノム配列を高精度に解読することに成功したことを発表しました。NRGene社との共同研究により遺伝子情報が可視化されたことで、植物体中のゴム含有量など、重要な形質の遺伝的背景の理解を深めることが可能となり、生産性の高いグアユールの育種を加速させることが期待されます。今後、プロセスの最適化による物性改良やアプリケーション(用途)開発の成果と組み合わせることで、2020年代にグアユールゴムのタイヤ材料としての実用化を目指します。(詳細は当社ニュースリリースをご覧ください。)

さらに、ブリヂストンは、キリンホールディングス株式会社との共同研究により、グアユール農園の生産性向上に向けた革新的新技術の開発に取り組んでいます。同一のグアユールを安定的に増殖させる技術が開発されたことで、今後は遺伝子情報から品種改良を行った優良種のグアユールの大量増殖が可能となり、天然ゴムの収量を安定させながら生産性の高いグアユールの栽培を加速させることが期待されます。ブリヂストンは、米国アリゾナ州にある自社グループ農園「アグロオペレーションズリサーチファーム(Agro Operations Research Farm)」に植えた優良品種の苗木のフィールド評価を開始しています。(詳細は当社ニュースリリースをご覧ください。)

BSAMのグアユール研究では、以下のような活動も行っています。

  • ブリヂストンは2017年に、米国農務省(USDA)農業食料研究イニシアチブ(AFRI)の助成金で活動する「Sustainable Bioeconomy for Arid Regions (SBAR)」の産業パートナーになりました。他にも、アリゾナ大学やニューメキシコ州立大学、米国農務省農業研究局(USDA-ARS)、コロラド州立大学などがパートナーに名を連ねています。助成金額は、5年間で1,500万ドルです。当社は、長期にわたる干ばつストレスがゴムの含有量や収量に与える影響の調査を目的とした2つの灌漑調査に参加しており、他の重要な調査もこの助成金の対象になっています。
  • 米国アリゾナ州中部で灌漑に用いるコロラド川の水不足の解決に積極的に関与しているNGOのEnvironmental Defense Fund(EDF)と、農家の畑に共同でグアユールを栽培することに合意しました。EDFは、水分をあまり必要としないグアユールを、現在この地域で栽培されている水分を多く必要とする作物に代わりうるものと考えています。
  • アメリカ先住民族の土地での栽培について、先住民族と協議を進めています。部族には水量が多く割り当てられていますが、水をあまり必要としない作物であるグアユールの栽培に関心を示しています。

2020年代の実用化に向け、持続可能な方法によるグアユールの生産性向上や生産方法の確立、物流の改善など、今後も様々な取り組みを推進していきます。

パラゴムノキの生産性向上

ブリヂストンでは、パラゴムノキの病害診断技術の開発を通して、天然ゴムの生産性低下を防ぐ取り組みをしています。また、パラゴムノキを栽培する小規模農家に対して、生産性向上の技術支援も行っています。

再生可能資源に「換える」技術

タイヤを構成する原材料は、多岐にわたります。
そのうち、合成ゴム、例えばブタジエンゴムやイソプレンゴム、タイヤを補強するカーボンブラックなどを含め、石油由来の原材料が多くを占めています。「100%サステナブルマテリアル化」のためには、これら石油由来のものを再生可能資源に「換える」ことが必要です。ブリヂストンでは、新しい再生可能資源に「拡げる」技術に加え、こうした「換える」技術の開発にも注力しています。

一例として、合成ゴムの中間原材料として重要なブタジエンについては、バイオマスを原料とし、バイオエタノールを経由して合成することに成功しています。既にこれを用いて当社の最先端ゴム合成技術を導入した高機能合成ゴムのサンプル試作が完了しています。
また、補強材やカーボンブラックについては、原料油を枯渇資源である石油または石炭由来のものから再生可能資源である植物由来油脂に「換える」技術開発に取り組んでいます。

花王株式会社との共同研究により、高機能タイヤゴム材料を開発

ブリヂストンと花王株式会社は、ブリヂストンの基盤材料技術「ナノプロ・テック™※1」と花王の「界面制御技術※2」という両社の強みを融合することで、革新的な高機能タイヤゴム材料を開発しました。これにより、相反する性能である低燃費性能とウェットグリップ性能を高次元で達成する高性能低燃費タイヤを提供します。また低燃費性能によるCO2排出量の削減に加え、原材料を植物由来の再生可能資源へと切り替えていくことで、環境負荷低減へのさらなる貢献が可能となりました。

  1. ※1 分子構造設計などを通して材料の微細構造を制御し、必要特性を引き出す技術の総称で、ブリヂストンの基幹技術の一つ。
  2. ※2 物質の表面・界面で起こる現象をナノレベルで理解し、それを精密に制御する技術。

持続可能なタイヤの商品化

「100%サステナブルマテリアルコンセプトタイヤ」の開発

ブリヂストングループは、天然ゴムの供給源・生産地域を多様化するとともに、原材料として使用する再生資源・再生可能資源を拡充しています。産学連携の取り組みなどを効果的に行いながら、「天然ゴム」や「有機繊維」は新しい再生可能資源に、「合成ゴム」や「カーボン」、「ゴム薬品」などは石油由来の資源から再生可能資源に換える取り組みを進めています。今後も、研究開発体制の確立や基盤技術の開発、量産化の検討を進めていきます。

パリモーターショー2012に参考出品した「100%サステナブルマテリアルコンセプトタイヤ」

※ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場にて開催